通信環境とデバイスの変化
日本に最初のスマートフォンであるiPhoneが登場したのが2007年。
その後、数々のスマートフォン、タブレットが発売され、すでに日本で使用されている携帯電話の半分はスマートフォンになりました。
スマートフォンが普及した背景には、通信環境の変化があります。
日本の主要都市であれば、高速のインターネット通信が可能です。
さらに今ではLTEのような高速通信規格も一般化し、無線インターネット環境で動画を見ることもストレスが無くなっています。
もはや家や会社のPCの前に居なくても、いつでもどこでもインターネット上の情報をストレスなく取り出せるようになりました。
これによって、モバイルデバイスからのインターネット接続が急速に増えました。
最近では、モバイルデバイスからのアクセスの方が多いサイトも増えてきています。
>>Our Mobile Planet(Google)
>>http://services.google.com/fh/files/blogs/our_mobile_planet_japan_ja.pdf
一方で、PCからのインターネット接続が減少しています。
PCからのYahoo!JapanやGoogleへの訪問者数は減少し始めているというデータがあります。
>>TOPS OF 2013: DIGITAL IN JAPAN(ニールセン)
>>http://www.netratings.co.jp/news_release/2013/12/Newsrelease20131225.html
インターネット利用者のPCからモバイルへのシフトが鮮明になっています。
しかし、その中で唯一特異なデータがあります。
それは、モバイル環境からのショッピングの傾向です。
先にご紹介したGoogleの調査によれば、ショッピングについてはあいかわらずPCから行いたい、という意見が大勢を占めています(P33)。
その理由はいくつかありますが、やはり画面が小さく、比較検討や、長時間の閲覧に不便さを感じること、また入力デバイスが不十分であること、セキュリティなどがあげられます。
いずれにしても、現時点ではショッピングに関してはPC環境の方が優位性があります。
また、ショッピングについては実店舗での購買のほうが優位な点もあります。
商品に実際に触れることが出来たり、一目でたくさんの商品を視野に入れながら、自身にとって適切な商品を選ぶプロセスが自然と行えます。
モバイル環境からのショッピングに魅力が無いか、というとそういうことではありません。
モバイル環境からのショッピングのメリットは、いつでもどこでも行えること、そして、他のプロセスと同時に行えることもメリットでしょう。
たとえば、私がデジタルカメラを購入するときに家電量販店で商品を選びながら、ネットの情報を参考にしたような方法です。
消費者は24時間365日ネットに接続できる環境を手に入れたことで、ますます消費行動が自由に、わがままになってきているのです。
これを脅威と見ることもできますが、消費者により良い消費体験を提供できるチャンスとも取れるのです。
オムニチャネルの出現
これをまさにチャンスととらえた考え方がオムニチャネルです。
日本語に直訳すれば、経路の統合、という意味です。
オムニチャネルとは、24時間365日インターネットに接続できる環境が整った今だからこそ提供できる新しい消費者とのコミュニケーションの形態です。
これまでのネット通販は、店舗は店舗、ネットはネットと完全に分かれており、別々のショップとして機能していました。
しかし、先に述べたように、現代の消費者は24時間365日ネットにつながり、情報を得ながら行動しています。
ネットで調べて店舗を訪問したり、店舗に居ながらもネットを閲覧したり、店舗で見たものをネットで購入したりしています。
消費者から見れば、一つの消費行動のプロセスの中で、ネットの世界とリアルの世界を行き来しているのです。
そう考えると、ショップもネットと実店舗を明確に線引きするのではなく、ネットと実店舗の商品情報の両方を参照しながら商品を買える様にしたり、ネットで検討して実店舗で購入したり、逆に実店舗で検討してネットで購入したり、ネットとリアルを行き来しながらショッピングがしやすいような環境をつくることです。
特に重要なのは、購入段階だけでなく、商品について知り、興味を持ち、検索、比較検討して購入し、最後に情報をシェアするまで、すべての段階で相互にネットとリアルを行き来しやすくしてあげることです。
これをシームレスな統合と言います。
つまり、ネットでもリアルでも基本的に同じ行動が出来、それがシームレスにスイッチできること、これがオムニチャネルです。
増えるオムニチャネル
オムニチャネルという概念を最初に提唱したのはアメリカのデパート メーシーズの社長です。
当時伝統的なデパートはネットにシェアを奪われ、業績が低迷していました。
そんな中で、消費者の行動変化にいち早く気づき、オムニチャネルという概念に基づく業務改革を行いました。
これによってメーシーズは急速に業績が改善したそうです。
業績改善の一番の要因は、在庫削減にありました。
ネットでもリアルでも同じ体験ができ、またそのプロセスを引き継いでスイッチできるようにするためには、顧客情報の一元化、商品在庫情報の一元化が必要でした。
その副産物として、全体として大幅な在庫削減を実現できました。
他にも、アメリカのアパレル店舗では、商品を販売しない実店舗が出現しています。
店舗では試着のみを行い、購入は店頭にあるネット端末を使ってネットショップで行います。
試着はしたけど、購入は迷っている、という場合は、顧客のメールアドレスに本日試着をした商品のリストを送付し、いつでもネットで購入できるようにしているそうです。
これによって、これまでは実店舗にいる時間だけが購入が可能な時間でしたが、これからは店舗を離れてもいつでも購入が出来るようになるわけです。
日本でもオムニチャネル化の動きは始まっています。
セブンイレブンがグループ全体でオムニチャネル化を推進していることがニュースになっています。
>>セブンの1000億円オムニチャネル計画、電通など参加
>>http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2803L_Y4A220C1000000/
セブンイレブンはドミナント戦略が知られています。
人口の多い一等地に集中的に店舗を配置し、物流効率を上げながら、エリアでのNo.1ブランドとなる戦略です。
つまり、セブンイレブンは立地という強みを持っています。
さらに、セブンネットショッピングというサイトで、ネットで購入したものを指定したセブンイレブンで受取り、決済が出来るサービスを提供しています。
これらの強みを重ねあわせることで、セブンイレブンは一等地に出店しながら、ネット上で販売するすべての商品を最寄りのセブンイレブンで受け取れることになります。
さらには、個別配送では無く、店舗までの配送が出来れば良いわけですから、一般の宅配会社を使うネットショップよりも物流の効率も良いわけです。
セブンイレブンはオムニチャネル時代においで、大変多くの強みを有していると言えます。
しかしながら、セブンイレブン以上の強みを持つ企業があります。
それはJRです。
駅にもっとも近く、また物流機能も持ち合わせたJRが駅構内でネットショップと連動した店舗を開設すれば、消費者の利便性は大変高いでしょう。
そこへ、最近のニュースで、JR西日本がセブンイレブンと提携した、という話がありました。
>>セブンイレブンがJR西と提携、駅ナカで西日本の営業強化へ
>>http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYEA2Q05G20140327
アパレルではZOZOTOWNがwearというサービスを開始しています。
店頭でバーコードを読み取ると、ネットショップにつながる、というサービスです。
このサービスをいち早く導入したのがパルコでしたが、諸事情から、バーコードスキャンサービスを取りやめたそうです。
>>ZOZOTOWNのスタートトゥデイ、スマホアプリの一部機能を停止
>>http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20140408/549247/?top_tl1
サービスの考え方としては正しい方向だと思いますが、その使いやすさが十分なのか、またzozotownという第三者が介在するサービスとしてコストも含めてメリットがあるモノなのか、まだまだ検討の余地があります。
いずれにしても、いまオムニチャネル時代に向けて、各企業が戦略的な動きを加速させています。