オムニチャネルの時代① ネット通販の成熟期

ネット通販の誕生

日本のインターネット黎明期だった1990年代後半。
一般家庭からインターネットに接続するには、電話回線を利用する必要がありました。費用は電話の通話料と同じく、1分数円でした。通信速度も遅く、最近のブロードバンドの通信速度と比較すると、数百分の一という速度。何らかの情報を見るために、インターネットに接続すると、数十分で数百円もの費用がかかりました。

2000年ごろから状況が変わりました。日本国内でADSLやケーブルテレビ回線によるブロードバンドの普及がはじまりました。ブロードバンドとは、かつての電話回線よりも帯域が広い(通信速度が速い)回線という意味で、電話回線よりも通信速度が数倍から10数倍も速く、画像が多く含まれるページでも数秒で表示が出来ました。

しかし、ブロードバンドの普及には、通信速度の向上以上にもっと大きな意味がありました。ブロードバンドは、常時接続環境をもたらしたのです。常時接続とは、インターネットに接続したいときだけ接続するのではなく、パソコンを立ち上げている間はずっとインターネットに接続している、という状態のことです。通信費用も、月額固定費用が一般的になり、毎月5000円くらいの費用を払えば、24時間365日インターネットに接続し放題になりました。

これによって、インターネットユーザーは、時間の制限なく、好きなだけウェブサイトを見て回るようになりました。インターネット上の検索エンジンで欲しい情報を調べたり、欲しい商品を見つけて購入する、という使い方が一般的になったのです。つまり、ブロードバンド環境の普及によって、インターネットユーザーは時間の制限なく、情報を探し続けることができるようになったのです。これによって、商品の比較検討が必要なネット通販も心置きなく出来るようになりました。

ネットショッピングの買い手が増加することで、ビジネスチャンスを狙ってネットショッピング市場への参入が増え、ネットショップが増加しました。これに一役買ったのが楽天市場や、Yahooショッピング、オークションなどの大手ショッピングモールです。初めての方には難しかったネットショップの制作も、モールなら比較的簡単にできました。また、モールならアクセス対策が苦手な方でも、モールの広告を購入することで、アクセスを獲得することが出来ました。当時は競合も少なく、比較的売り上げを伸ばしやすい環境だったので、多くのネットショップが数か月で月商100万円を超えることが出来ました。

成長期

日本国内のインターネットユーザー数は急激に増え、2003年には全人口の6割に達しています。しかし、ネットショップはまだまだ黎明期。つまり、ネットで買う人は増えましたが、ネットで売る人はまだまだ少ない時代でした。このギャップがとても大きかったため、当時ネットショップをはじめれば、特別なノウハウや技術が無くても、毎月数百万円という大きな売り上げを上げることが出来ました。

しかし、ネットショップの春は長くは続きませんでした。徐々に競争が激しくなります。2004年に日本国内最大の検索エンジンであったYahoo!JapanのシステムがYSTというシステムに切り替わることで、いわゆるロボット型検索エンジンになりました。いわゆるSEOが、日本最大の検索エンジンYahoo!Japanでも通用するようになったのです。SEOで検索エンジンの検索結果上位に表示されれば、それだけでたくさんの方がサイトを訪問し、売り上げも増えました。検索上位はすべての企業にとってメリットが大きいことが知られ、SEOの一大ブームがありました。これを聞きつけて、ビジネスチャンスを求めてネットショップを始める方が増えました。

さらにはリスティング広告の普及も競争激化に拍車をかけました。ワンクリック9円程度で検索エンジンの検索結果画面に広告が出稿できました。SEOで上位表示が出来なくても、比較的安価に広告出稿することでアクセスを集めることが出来ました。

他にも、google analyticsや、ディスプレイ広告の浸透など、ネットマーケティングの新しい手法が次々と登場し、ネットマーケティングブームが起きました。以前と比較して競合が増えたため、ネットショップの運営は簡単ではありませんでしたが、競争に勝てば売り上げが伸びる、という時代でした。

成熟期

2008年ごろになると、ネット利用者は日本の全人口の75%に達しました。
ネットショップの数はますます増え、あらゆるジャンルで競争が起こりました。大企業のネット通販も増え、価格と納期で勝負するには資本力が必要になりました。これまでのように、仕入れ品をネットで売って利益を出すことは難しくなりました。

かつては、ネットで売る、ということが希少価値であり、選ばれる理由でした。しかし、いまでは、ネットでモノを売るには選ばれる理由が必要になったのです。成長期に急激に規模を拡大したネットショップの多くは、競争参入が早かっただけで明確な強みがありませんでした。そのため、このころには業績が伸び悩みました。

さらに楽天市場などのショッピングモールでは、独自ドメインと異なり、アクセス対策やマーケティングの多くの仕組みを共有しているため、差別化が難しい環境にあります。SEOやリスティング広告による集客が効果的に利用できなかったり、google analyticsが導入できないなどの限界があります。差別化できるのは、商品そのものと、楽天内のカテゴリ経由でたどり着く商品ページくらいです。そのため、楽天市場に出店しているネットショップは、利益を出すことがより一層難しくなりました。

さらにアマゾンの急成長がネットショップの競争を著しいものにしています。いまや楽天市場に出店しているネットショップでアマゾンにも出店しているショップが多く、同じ商品を買うならアマゾンの方が同じ価格でより早く配送してくれます。さらに、レコメンデーションも手伝って、特にどこでも売っているような商品を通販で買うなら、アマゾンで購入するのが最安、最短発送であることが多いのです。これからのネットショップは、アマゾンに勝てる理由が必要なのです。