オムニチャネルの時代⑦ お客様は求めているが、誰もやりたくないこと

市場規模と参入障壁

メーカー化、サービス業化のいずれにおいても、それがアイデア一つで出来てしまうようなことなら簡単に真似されてしまいます。
ネットを活用して商品、サービスを紹介するなら、競合他社もそれを見られるわけですから、どんな価値を提供しようとしているのかは簡単に見えてしまうのです。
長く差別的優位性を維持するためには、真似されない商品、サービスを開発しなくてはなりません。

そのためには2つのポイントがあります。

1.自社にとって最適な市場規模

2.誰もやりたくない

自社にとって最適な市場規模

新しい商品やサービスを開発するのは、コストや時間をかけただけの見返りがあるからです。
年商100億円の企業が、年商3億円見込みの新規事業を始めることは無いでしょう。
しかし、年商1億円の企業なら、年商3億円を目指せる事業は魅力的です。
逆に、年商1000万円の企業では、年商3億円の市場に取り組んでも、より企業規模の大きな競合と戦うことになり、競争に勝つことは難しいでしょう。

もちろん、どんな企業も小さいところから徐々に大きくなるわけですから、必ずしも大きな市場を狙ってはいけないわけではありません。
ただ、自社に優位性が無い規模にチャレンジするなら、取り組むまでの段階がある、ということです。

リスクが高い

経営者は本能的に経営リスクをとりたがりません。
新しい事業に見込みがあるとしても、上手くいかなかったら会社が倒産してしまうようなリスクを感じると、「それは今出来ないこと」と決めつけてしまいます。
出来るようになったらやろう、と思っていても、その日はなかなか来ません。
もしも企業の規模が大きくなり、チャレンジが失敗してもつぶれない、と思えるときが来たとしても、その頃の事業規模ではその市場の規模は小さすぎて、魅力的ではなくなっているということです。
つまり、どこかのタイミングで、自社の事業規模に見合わないチャレンジをしない限り、新しい市場に参入することは出来ないのです。

仕事って何 「脳がちぎれるほど考えよ」  (孫正義ソフトバンク社長) :日本経済新聞より
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0403Z_U4A400C1000000/

このようなチャレンジが出来る人はごくまれです。
ほとんどの経営者は、出来る範囲で企業をしたり、誰かから受け継いだ企業を存続させているにすぎません。
無から有を作り出せる人は大変少ないのです。
それが出来るかどうかが企業の存続を考える上での大きな要因になります。

日本企業の経営を研究する三品 和広 先生は、
「企業が長く存続するかどうかは、イノベーションが必要なタイミングで創業者が会社に残っているかどうかにかかっている」
と言っています。
つまり、創業者以外にイノベーションが出来るような人材はほとんどいないということです。
1人で操業するなら失敗のリスクも一人の人生分で済みますが、数十人の雇用を受け継いでから、創業経験の無い人が、リスクをとって新しい事業に踏み切ることはとても難しいのです。

戦略不全の因果―1013社の明暗はどこで分かれたのか 三品和広
http://www.amazon.co.jp/dp/4492521682/

他にも、伝統的な分野であれば、伝統を壊すような「邪道」と言われるチャレンジは避けてしまうものです。
「これが正しい価値観だ」と刷り込まれるからです。
しかし、社会は大きく変化し、ニーズは大きく代わってゆきます。
それを正面から受け止め、「求めている人が居るのであれば、誰かがやるべきではないか」と思うことで、はじめて検討しよう、と思うわけです。
いわゆる守破離です。

お客様から勇気をもらう

そんな中で、どのようにして大きなチャレンジが可能になるのでしょうか。
その方法は、社会貢献を意識することです。

自分自身の利益のためだけに仕事をしているうちは、お金を失う恐怖から逃れることはできません。
欲の分だけ恐怖も増えます。
しかし、仕事をしていると、お客様からのありがとうの価値に気が付きます。
同じように、従業員や、パートナー企業のありがとうに気が付くはずです。
そうなると、自分のためでは無く、お客様、従業員、パートナー企業のために、もっともっと頑張ろうという気持ちになります。
そうなって初めて、お客様のニーズの変化に気づき、新しい商品、サービスのアイデアが生まれます。
そこにリスクがあったとしても、「お客様に喜んでもらうため」と思うのであれば、「失敗しても、お客様が助けてくれる」と思えるのです。
そのような関係を築くことが出来、「社会のために自分がやらなければならない」、「自分がその役割を担っている」と思えたとき、それはミッションと呼ばれます。
自社の規模ではリスクかもしれませんが、社会全体の代表としてこれに取り組むとき、そのリスクはとても小さいものに思えるのです。